2011/05/16

(67)使えない「埋蔵電力」、東電の供給量に匹敵



使えない「埋蔵電力」、東電の供給量に匹敵

「電力不足」の拡大が心配される一方で、こんな数字が注目されている。全国の企業が持つ自家発電を足し合わせると、発電能力は6000万キロワット。東京電力の供給量に匹敵する巨大な「埋蔵電力」の存在だ。電力は本当に足りないのか、使えないだけなのか、だとすれば何が問題なのか──。
東京都港区の雑居ビル4階にある日本卸電力取引所(JEPX)。大手電力会社や新規参入の電力事業者が余剰電力を融通しあう「電気のマーケット」で、東京エリアの取引が停止したままという異常事態が9週間も続いている。震災で被害を受けた東京電力が、自社の電力供給が不安定なことを理由に、取引所で約定した電力の送電受託(託送)を再開しないためだ。
2005年から始まった取引には、まとまった規模の自家発電設備を持つ石油化学や鉄鋼メーカーなど約50社が参加。翌日に使う電力(スポット)などを売買している。2010年度の約定電力量は約55億キロワット時。国内の電力需要に占めるシェアは約1%と小さいが、価格は需給を敏感に反映する。
取引停止中も東電は、独自に取り決めている事業者に対しては電力供給しており、そうした顧客については直接の不都合は生じていない。問題は、東電以外の事業者どうしで約定した取引だ。東京エリアでは東電の送電網を使わないと電力を送れない。電力の「売り手」と「買い手」はいても、それを仲介する「運び手」が機能しない状況ということだ。計画停電の実施時はやむを得ない面もあったが、計画停電が終了した今も再開されないことに参加者の不満はくすぶる。
「おたくから買えば停電を避けられるのか」──。PPS(特定規模電気事業者)大手のダイヤモンドパワー(東京・中央)には3月の計画停電のさなか、メーカーやオフィスビルからの問い合わせが殺到した。PPSは電力各社や工場の自家発電設備などから電気を仕入れて、工場やスーパーなどに売るいわば電力の小売業者だ。
東電分が足りなくなったらPPSから買えばいいと誰もが考えたわけだが、残念ながら答えは「ノー」。電力会社が送電網というインフラを一手に握る「弊害」がここにも表れた。
計画停電など非常時のPPSの扱いは、家庭など一般ユーザーと同じ。これでは手持ちの電力を自由に販売する経路を絶たれた小売りの出る幕はなくなる。PPSが電力会社に支払う送電線の賃借料は海外に比べて割高との指摘も多い。賃借料はPPSが顧客に販売する電力の料金の約2割を占める。
NTTグループなどが出資するエネット(東京・港)は、200万キロワット規模を供給するPPS最大手。電力自由化の推進を主張するNTT出身の武井務社長は「送電網を電力会社が握ったままでは独占時代と変わらない」と指摘する。
1995年から段階的に進められてきた電力自由化の動きの中、2000年の自由化第2弾でPPSは生まれた。だが直近も届け出社数は50社に届かず、オフィスなどに実際に電力を供給する事業者は30社に満たない。PPSの電力供給全体に占める割合は1%未満だ。
02年、今度は当時の村田成二・経済産業事務次官が旗を振り、電気事業法改正案に、電力会社が電力サービスを上流から下流まで丸ごと担う仕組みをガラリと変える「発送配電分離」を盛り込む段取りを整えた。
だが、この時は東電のトラブル隠し事件で福島などの原発が一時停止に追い込まれる事態になり、電力供給を維持しようとした東電幹部が自民党の電力族に駆け込んで、議論を押し戻した経緯がある。自由化の手本とされていた米国で01年にカリフォルニア州大停電が起き、エネルギー大手エンロンが巨額の不正取引で破綻したことも逆風になった。07年の改革も小粒にとどまり、今にいたっている。
今回の電力不足問題は、発送配電の一体経営に基づく地域別独占という電力供給のゆがみを改めて浮き彫りにした。いま電力不足対策づくりに追われる経産省の中堅幹部はこう話す。「賠償が一段落したら、次は電力の供給体制の見直し。電力各社の『私道』である送配電網を、もっと自由に行き来できる『公道』に変えないと……」








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